VANMOOF以外にイケてるのないのかな
自転車を愛する者として横目で気になりつつも、本気ではあまり欲しいとは思っていないぼくなのですが、やはり気になる。ということで、つい先日は話題のVANMOOFに試乗してきたわけです。個人的に未来的なコンセプトやビジネスモデルには共感しますが「デザインで売る」というマーケティングがあまり好きではないんですよね。昔のアウディみたいで。
Form follows function
形態は機能に従う
バウハウスも然り、アートでないインダストリアルデザインの場合、やはり金言どおり「形態は機能に従う」のがいいと思うのです。最初からウケを狙って「どうだ、かっこいいでしょ」というスタイルのブランドはどうもダサく感じてしまうのですよね、ぼく。まあ「このヒネクレモノ!天邪鬼め!」の誹りは甘んじてお受けいたします。
というわけでVANMOOFのウケを狙っている(と天邪鬼なぼくが感じる)デザインは好きではないのですが、それ以外にもあまりピンと来ないプロダクトでした。↑のポストでも書きましたが、大きな理由は2つ。
①4段のギア(Eシフター)の変速タイミングが感覚にフィットしない
②ペダルの踏力が結構必要(自転車の楽しさを残している)
①に関して、要はVANMOOFはオートマを志向しているわけです。Eシフターの機構については後日調べてみようと思いますが、おそらくスプロケは何枚かあって、クランクにかかるトルクなどをベースにシフトタイミングをコンピュータ(というほどのものではないと思いますが)が判断し、電子的制御で機械的にシフトしているメカニズムと予想します。
これがCVTのような無段変速機ならオートマでもいいと思うんですけどね。自転車側に「ガチャガチャ」変速されるのがあんまり気持ちいいUX(ユーザー体験)ではないと、自転車好きのぼくは思うわけです。
さらに②についてはこのVANMOOF、漕ぐというアクションが自転車の魅力の中核にあると考えていて、ペダルの踏力が結構必要な味付けになっていることに触れる必要があります。
アシストレベルを最大の「4」に設定してもペダルがクルクル回るわけではないのです。上述の通りデザインは(天邪鬼なぼくは嫌いですが)よくても、根本的な存在価値の規定の部分で自転車を越えられていない、ある種の自己矛盾をぼくは感じてしまうのです。
百家争鳴の電動アシスト界隈の影の主役たち
VANMOOFはそれなりに先端のプロダクトだとは思います。しかしその売り方に関する体験はともかく、プロダクトがもたらす「走る」というユーザー体験が最高のものになっているか、についてはもうひとつかなと。VANMOOFがベンチマークする、TESLAやAppleのようなブランドが作るプロダクトのレベルにはまだまだ達していないと思いますね。その点では今後に期待はしようと思います。
さて、ではVANMOOF意外に注目すべきプロダクトはこの界隈にないのか。VANMOOFは既存カテゴリーのディスラプター(破壊者)を目指すブランドですから、当然受けて立つ先行者がいます。この場合は、いわゆるスポーツバイクをはじめとする自転車メーカーたちがそれです。彼らがどんなプロダクトを作っているのか調べてみると、ぼくの知る限り3つのグループに分かれそう。どこの電動アシストユニットを使っているかによって3つに分かれるのです。
電動アシスト自転車のアシストシステムの主要なプレイヤーは以下の3社。1社目はドイツのデバイスメーカー、ボッシュです。
Bosch eBike: Motors, batteries and on-board computers for eBikes
Whether City eBikes, touring pedelecs or eMountain Bikes: Innovative technology from Bosch makes electric bicycles even safer and more comfortable to ride.
2社目は日本のシマノ。シマノは自転車部品のトップブランドですが、多くの人はあまりその実態を知りません。でもシマノの時価総額は実は日産を越えているんですよね。日本が誇る優良企業なんです。
SHIMANO STEPS | 株式会社シマノ
SHIMANO STEPS は、ヨーロッパでデビューしたE-スポーツバイク (電動アシストスポーツ自転車)用ユニットシステム技術をベースに、日本のフィールドとレギュレーションに最適化したものです。 アシスト自転車をスポーツへと昇華させたE-スポーツバイクコンポーネンツ「SHIMANO ...
3社目も日本のヤマハ発動機です。
ヤマハ発動機株式会社 ヤマハ発動機の技と術
小型ドライブユニット「PWシリーズ」 ...
他にもあるかも知れませんが、主だったところはこの3社かなと思います。VANMOOFがどのユニットを使っているのか、現段階ではわかりませんでした。もしかすると独自開発なのかも知れませんね。独立系も含めて他にも有力なプレイヤーを見落としているようなら、コメント頂けると嬉しいです。このうち、3社目のヤマハ発動機はおそらく自社プロダクトへの装着が中心。リンク先の記事を見ると欧州の企業や台湾のGIANTなどへのシステム供給に触れていますが、ボッシュとシマノに押されているものと想像します。こちらももし違っていたら誰か教えて。(笑)
ボッシュ、シマノはB2Bのシステム提供企業ですから、その線が強いのは当然といえば当然かもしれません。両社はそれぞれ自社のシステムを利用しているメーカーのリストを公表しています。見る限り、スポーツバイク業界に強いのがボッシュで、汎用メーカーに強いのがシマノの模様。以下に2社のクライアントリストをウェブサイトから切り出してみます。
シマノはこんな感じ。MERIDA、ルイガノにも提供していますね。
こちらがボッシュの提供先。ビアンキ、キャノンデール、スコット、ターン、トレックと錚々たるロードバイクブランドが並んでいます。機能・性能に何らかの差があってスポーツバイクブランドがボッシュを選んでいるのか、この勢力図の背景はちょっとわかりません。
TREKのEバイクを見てみると
さてTREKを例に実際のプロダクトを見てみましょう。システムの価格がどのくらいなのか公表されていないのでわかりませんが、TREKが販売しているEバイクの値段を見ると、ただでさえ高価なスポーツバイクにこのボッシュのシステムを載せることでとんでもない値段になっています。
Rail 9.7 | Trek Bikes (JP)
Rail 9.7 NXに乗って最高のライドで最高の一日を。最寄りのトレック正規販売店で最適な一台を見つけよう。
これはマウンテンバイク型のEバイクの最高峰、Rail9.7ですが、プライスは790,000円。これ極端な話、SUZUKIの大型オートバイSV650の752,400円より高いんですよ。カーボンフレームなどの先端的な技術が導入されているとはいえ、すごいですね。
車体色・価格・諸元 | SV650 ABS | 二輪車 | スズキ
スズキ二輪車の「SV650 ABS」の車体色・価格・諸元ページです。
TREKのEバイクで最も安価なのは231,000円のVerve+です。しかしこちらがボッシュのシステムをポン付けした感がありありで、正直かなりカッコ悪い。なるほどこういうのがコンペティターなら、VANMOOFに分があるかも知れませんね。でもそれでは真のディスラプターにはなれないけどね。
Verve+ | Trek Bikes (JP)
ライドをもっと楽しみたい、電動バイクのアシストで走りや行ける場所が広がることを知っている、快適さを重視し、長距離ライドで多用途さや信頼性を発揮する最新の電動テクノロジーを備えたバイクが欲しい方に。 軽いアルミフレーム、Bosch Active Line Plus ミッドドライブモーター、PowerPack Performance 300Wh バッテリー、Bosch Intuvia コントローラーを採用。また、フレーム埋め込みの前後ライト、リフレクターを備えたボントレガー H5 Hard-Case Ultimate 42c タイヤ、あらゆる天候で高い制動力を発揮するShimano 油圧ディスクブレーキ、フェンダー、キックスタンドといった通勤・通学に便利なすべてを搭載している。 Verve+はあなたの力を増幅させる。お求めやすい価格のeBikeは、あなたをアシストしてどんな走りももっと楽しめるようにする。高品質のコンポーネント、快適に走れるジオメトリー、パワフルなペダルアシストシステムにより、Verve+は優れた価値を持つ、とても楽しいバイクだ。 Verve+はあなたのパワーを増幅させ、ライドの一番オイシイところを楽しめるようにする 250ワットのBosch Active Line Plus ミッドドライブモーターは、時速24kmまであなたをアシストする 信頼のBosch eBikeシステムを驚きの価格で提供 このバイクなら、もっと外に出て、通勤・通学、クルージング、トレーニングを楽しめる
TREKの最も安いクロスバイクはFX1で、2020年モデルでは55,000円です。それをベースにボッシュのシステムをインストールしたのが、このVerve+だと仮定すると、システムによる価格上昇分は176,000円と推測できます。さて、これだけのエクストラコストを払ってぼくらが得られるものを真剣に考えると、いったい何なんでしょう?
・クロスバイクよりカッコ悪いバイク
・確実に増える重量
・ある程度の踏力を必要とする電動アシスト
・バッテリー充電の手間
クロスバイクFX1の本体価格の3倍以上のエクストラコストを払ってまで、このVerve+に乗らなければならない理由をぼくは見出せません。マウンテンバイクでダウンヒルを楽しむなら、登りはアシスト付きが合理的かもしれません。でも排気量650ccのオートバイよりも高い値段は払わないかな。
電動アシストって中途半端じゃない?
ここまで見てきて、ぼくの中では結論めいたビジョンが浮かびつつあります。そもそもスポーツバイクに乗る意味が身体を動かすことや健康増進にあるのだとするとアシストは無い方がいいことになります。逆に早く安全に移動するための都市のスマートコミューターと考えるのであれば普通の原付二種の方が合理的な気がします。
ね、電動アシスト自転車って中途半端じゃありません?
それこそ50ccの原付なら、↑のTREKのVerve+よりも安い値段でもっとたくさんの選択肢があります。ぼくが強く惹かれているスーパーカブだって買えるわけです。
それに電動アシスト自転車って、趣味のツールと考えたときにもいまひとつな気がします。なんかスタイルがないというか、それを自分の生活に導入したときに何かが大きく変わっていく予感に乏しい。ぼくにはそう思えます。
でもそれはすでに自転車生活を送っているからかな。
もしもいま自転車に乗っていなくて、体力的な問題などで電動アシストなら自転車に乗ってもいいなと思っている人にとっては有益なのかも知れません。また、いわゆるお母さんの子育て支援ツールとして考えれば、こちらは論を待たずに有益ですよね。
だからそういう人たちが電動アシストに手を出すのはいいと思います。
でもぼくが薦めるのは、
移動の自由を謳歌すること
人生の中の日常を冒険に変えること
なので、そういう意味では電動アシストのない、自分で漕ぐクロスバイク、ロードバイク、そして内燃機関の力を借りて、自転車よりもずっと速く遠くに行くことができるモーターバイクがいいな、やっぱり。
とはいえこれは個人の感想、思想であり、電動アシスト自転車の存在を否定するものではありません。上述のVANMOOFを含め、気になるものがあれば試乗してみることをお薦めします。何度もいいますが、絶対に試乗しないで買っちゃダメよ、乗物は。