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馬上・枕上・厠上。現代の馬上、クルマは最高のアイデア開発装置だ。

都市生活にクルマは必要か

ぼくは麻布十番にオフィスと自宅をまとめた職住近接のライフスタイルです。職住近接だから成り立つ部分もあるとは思いますが、自宅にクルマを保有しており、それを主に仕事で使用しています。麻布十番のオフィスのほか、クライアントや取引先との打ち合わせはほぼ都心で行われます。丸の内、神田、渋谷、恵比寿、新宿、虎ノ門、霞が関、永田町、麹町といったエリアが中心でしょうか。その際の移動はほぼすべてクルマです。

 ときおり「都心で暮らすならクルマは要らないんじゃないですか?」と言われることがあります。はい、それはぼくもそう思います。都心生活はメトロを使うにせよ、タクシーやUberを使うにせよ、どこへでも遅滞なく行くことができるので便利ですし、必ずしもクルマを使う合理性はありません。またコストを考えると、麻布十番界隈の駐車場は最低でも月額25,000円程度からで、平均的には40,000円弱が必要です。これを週末だけの稼働で賄うとすると、クルマの保有はあまりよい選択肢だとぼく自身も思いません。

 さらにクルマ、正確に言うと自家用車はその必要性を減じていくことがほぼ確実。東京の都心は様々なサービスが最初に始まっていく場所なので、おそらく数年以内に「EVでかつシェア」というサービスが始まると思いますし、そうなったらぼくもきっと利用するだろうなと思います。でも本稿で伝えたいことはそこではないのです。

 都市生活者にクルマは必ずしも必要ない。それはそう。でもナレッジワーカー(の一部)にとって、クルマはとても大切な要素だとぼくは考えています。

創造空間としてのクルマ

 突然ですが、皆さんはどんなところでアイデアが浮かびますか?ぼくの場合は、以下の3つ。

①お風呂に入っているとき
②オフィスで好きな音楽を聴きながら読書をしているとき
③クルマを運転しているとき

②と③は環境として極めて近いと分析しています。オフィスは自分が快適だと思うようなインテリア、光、音楽を整えていますが、クルマも自分の好きな空間、香、匂い、音楽という要素を備えていて、極めて快適かつクリエイティブな環境になっているのです。東京都心で毎日4時間くらいは打ち合わせをするとして、その合間、クルマに乗っている時間は1.5時間くらいでしょうか。ほぼ毎日クルマを使うので、週間7.5時間、月間30時間、年間最大で360時間くらいはクルマの中で過ごしている可能性が算出されます。 これを活用しない手はありません。

 この時間にいいアイデアが思いついたりすると、ぼくはiPhoneなどを利用してボイスメモを取ります。そしてそれを分析やプランニングに最大限活用するわけです。30年に亘る長い間、マーケティングに関係した仕事をしてきたので、クルマのお仕事もずいぶんやりました。個人的にクルマなどの「動くもの」「操縦するもの」が大好きで、お金もずいぶん使ってしまったなと思います。クルマはそうした楽しみを与えてくれるだけではなく、ぼくにとって重要な仕事場、アイデアを手に入れる場所でもあるのです。

三上のひとつ、馬上



 欧陽脩という北宋の詩人の言に「三上」があります。曰く、

「余、平生作る所の文章、多くは三上に在り。乃(すなは)ち馬上・枕上(ちんじゃう)・厠上(しじゃう)なり」

欧陽脩「帰田録」

 詩人である欧陽脩は文章を認める場合、その多くは「馬上=馬の背」「枕上=枕の上、すなわち寝ているとき」「厠上=すなわち用を足しているとき」に創造している、と言うのです。

ほらね、クルマの中は現代の「馬上」なのです。

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