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科学者が説く「ただ導きたまえ」の重さ。田坂広志『運気を磨く』

意識を疲れ果てさせる現代

COVID-19による不安の再生産、NYストックマーケットの暴落、欧州(特にイタリア、フランス、スペインなど)での感染の拡大。2020年3月の世界は、ぼくが見てきた50年超の歴史の中でもかなり混乱している。大混乱と言ってもいいかも知れない。見えない恐怖に脅かされた人々は恐慌に陥ってしまいそうだ。いやもう陥っているのかも知れない。

学校は休校になり、企業はテレワークを推進している。麻布十番で職住近接のライフスタイルを確立しているぼくには大きな生活の変化はないが、経済が細くなりつつあることは感じられる。いまはもう厳しい近未来は避け得ないだろう。であれば、ぼくたちはその現実を受け入れつつ、次のステップに向けた意識改革をするしかない。

運気を磨く

そんな気分の昨日、この本を薦められた。著者は田坂広志氏。知らない名前ではない。ぼくが田坂氏を知ったのは「複雑系」の解説者としてだ。その後、日本総研やソフィア・バンクの設立、多摩大学大学院の教授として、その存在を知っていた。しかし、彼がこのようなある種の啓発本を書いていることは知らなかったのだ。

『運気を磨く』は「心を浄化する三つの技法」という副題が添えられている。文体は読みやすく、すっと入ってくる。この著者らしく、きっと相応の推敲を重ねたのだろう。冒頭から何度も繰り返されるのは、彼が「科学者」であり、オカルトなどを信奉する者ではないということ。「無意識」という難しいテーマを可能な限り科学的に扱いたいという意志についてである。

また彼は自らの経験をベースに語る。彼のような科学者であり、教育者である人がどのようなプロセスを経て、「運気」を語ることになったのか、読者は興味を持って読み進めることができるだろう。2時間程度を読了したが、ぼくにとってはとても得るものの多い、素晴らしい本だった。意識を変えることはとても大事だ。

無意識を浄化させるために重要なこと

まず彼が触れているのは「自然」の治癒力を使って無意識を浄化する方法。心を開いて自然に向き合うことはぼくたちにとって重要だ。これは腑に落ちる体験を実際に持っている。もう十数年前かも知れないが、パリ郊外ヴェルサイユのプチトリアノン近くの小径を歩いていたとき、あまり優れていなかった体調が、一歩一歩の歩みとともに良くなっていくような確信があった。あのとき、ぼくは自然の治癒力を思い知った。

自然と向き合うことで無意識を浄化すること。

また、ぼくにはトラウマというか、本書で言うところの無意識に眠るネガティブな感情がある。無意識に眠るので意識できていないのだが、その存在は感じられる気がしている。彼の言うとおり、人間が持つネガティブな想念の大半は人間関係から生じており、その原因は自分自身の思い込みである可能性が高い。彼はそれを手放す方法を教えてくれている。

嫌いな人、わだかまりのある人を思い起こし、その人に感謝すること。
その感謝の念を心の中でつぶやくこと。
それを何度も繰り返すこと。

それだけで無意識に眠るネガティブな想念は消えていくのだという。信じるものは救われる。すぐに試していこう。ぼくの中にあの人たちを思い浮かべ、その人たちに感謝の念を呟いていこう。それで心が浄化されるなら。

日常的にポジティブな言葉を使うこと。

これは心掛けている。ぼくは言霊を信じているから。

失ったものばかりに目をやらず、与えられたものにフォーカスすること。
艱難汝を玉にす。
幸運は一見不幸な物事としてやってくる。

要は解釈次第。成長の機会を与えてくれる混乱や不安に感謝するような気持ちを持てればいい。

幸運と不運。ポジティブとネガティブ。このように二項対立で捉えないことが大事。ポジティブはネガティブ。ネガティブはポジティブ。全てを受け入れること。

絶対肯定。

大いなるものに導かれている、成長の機会を与えてもらっている、という感覚。

祈りの言葉はただ「導きたまえ」でいい。

今日からすぐに心を整えられる良書だと思う。

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